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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)1170号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人河村光男の上告理由について。

論旨(末段を除く部分)は、要するに、原審の引用する一審判決は、県令第三七号のほかに町村区域変更処分があつたことが認められないことその他の理由により、右県令をもつて、町村区域の変更を目的とする具体的処分であると断じているが、かような理由で県令を行政処分と断ずることは誤りであり、右の判断は、むしろ、本件飛地が愛本村に編入の効果を生じいることを前提してかかつているものであるから、原審の引用する一審の判断は理由を附さないか理由に喰い違いがあるというのである。しかし、県令第三七号以外に町村の区域変更に関し具体的処分と目すべきものがなかつたことは、原審の引用する一審判決の認定するところであつて、若しそうだとすれば、県令自体が具体的処分がない限り、飛地の編入はおろか県下の一切の町村の区域変更は生じていないという不自然な結果となるわけであるから、県令以外に当時具体的処分と目すべきものがなかつたことと県令の文理その他の事情を綜合して、右県令自体が町村の区域変更・飛地編入の効果を生ずる具体的処分に当ると解釈することは正当かつ当然である。所論は、独自の見解を主張するものでなければ、原審の引用する一審判決の趣旨に添わないものであつて採用の限りでない。

論旨末段は原審の引用する一審判決が、県令第三七号を公布した富山県においても、同旨の県令を公布した他府県においても、現在なお飛地が多数残つているにかかわらず、この事実を無視して、県令第三七号により本件飛地編入の効果を生じたと断定したことは、理由不備の違法がある、というのである。しかし、富山県下及び同様の県令を公布した他府県において台帳上現在なお飛地が残つているということだけでは、原審判断の妨げとなるものではない。けだし、これらの飛地のうちには、本件同様単なる帳簿上の整理漏れと認むべきものもあるであろうし、また、分合調書の誤謬訂正につき内務大臣の承認を得る手続がとられないままとなり従つて法的に編入の効果を生じていないと認むべき場合もあり、その他各府県にはそれぞれ特殊な事情もあり得るわけであるから、現に台帳上飛地が相当例残つているとしても、それだけで富山県令第三七号が本件飛地の編入を目ざす行政処分ではないという結論に到達するわけのものではないからである。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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